引退の言葉〜飛鳥井翠〜
お疲れ様です。先日庭球部を引退しました、女子部前主将の飛鳥井です。引退にあたり、ブログを書かせていただきます。
いつも支えてくださったOBOGの先輩方、水野コーチ、川崎さん、同期、後輩のみなさん、ありがとうございました。庭球部生活のどんな場面を切り取ってみても、私の視界の先、すぐそば、背中ごしに、必ず誰かがいてくれました。当たり前のようにテニスに打ち込めた3年半は、周囲にいてくださった方々のおかげなのだと今さらながら深く噛み締めています。かけがえのない時間をありがとうございました。
部活を引退して一ヶ月が経過しました。現役時代からは考えられないほど、毎日の時間がゆったりと流れていきます。最近のブームは、スマホの地図を見ずに、目的地を決めない散歩/サイクリングに行くことです。頻繁に、本当に帰れないんじゃないかと思うくらい自分がどこにいるか分からなくなりますが、意外となんとかなります。部活で得られなくなった”生きている実感”を得ているのかもしれません。楽しいので、もし興味がある人がいれば一緒に道に迷いに行きましょう。
さて、引退して驚いたことは、引退しても”庭球部”は終わりにならなかったことです。現役の時は、「4年生9月半ば:入れ替え戦」をもって庭球部人生は幕を閉じると思っていました。その先に何があるかなんて、考えたことはありませんでした。
でも例えば、引退後、敬愛する先輩方が多方面でお疲れ様会を企画してくださいました。「おかえり」と言ってもらったような安心を感じるとともに、この方々と同じ東大庭球部OGとして一生過ごしていけるのだと誇らしい気持ちでいっぱいになりました。
新しい代のSlackやメーリスを見ると、連絡の裏側にある後輩一人ひとりの丁寧な努力や活力を感じます。コートに行くと、やっぱりテニスっていいな、頑張るっていいなと元気をもらえます。これからも微力ながら部活を支えていけたらとあらためて思います。
同期がいちばん新鮮です。なんだかんだそれなりに会いますし、全部が終わった今、分かり合えること、言い合えることがたくさんあります。3年半で知らないうちに築き上げられていた安心感や信頼感は、他では得られないものでした。”部活”という同じ時間を過ごせて本当によかったと思いました。
続いていったのは、人との関わりだけではありません。現役時代の楽しかったこと、辛かったこと、嬉しかったこと、悔しかったこと、様々な経験が、血となり肉となり、自分の中で生きているのを感じます。どんなに大変だったことも、今では、「あれはあれで楽しかった!」「よく頑張ったなあ」「ふう……(考えないことにする)」のどれかに落ち着きます。どれも、達成感や教訓があり、経験してよかったと思えます。そのおかげで今の自分があるのだと思えます。
もし、庭球部と何かを天秤にかけて悩む後輩がいたとしたら、その天秤には大学の4年間だけではなく、その後に続く人生までのせてみてほしいです。庭球部での経験は、部活を終えた後も心のどこかに残る一生ものでした。しかもそれは、現役時代に感じていたものと違う形をしていました。私の場合は、全部が終わってからより一層じわじわと輝き出すような、素敵な宝物だったみたいです。最後には報われるから絶対に部活は続けろ、などとは言えませんが、少なくとも、現役時代に感じられるものよりはずっと多くの満ち足りたものが、全部が終わった後、決して消えない何かとなって自分を包んでくれると思います。
引退というのは、練習と役職の義務がなくなるだけで、その先にはまだ素敵な道が細々と敷かれていました。入部した時に憧れた庭球部とも、だんだんなじんでいった庭球部とも違う、また新しい庭球部がありました。これからはOGとして、この長いエピローグを楽しんでいけたらと思います。
……このまま筆をおいてもいいかなと思いました。が、明るく締めくくるだけでなく、主将として主務として選手として、得たものや考えていたことを残していくことも、部活に対するひとつのけじめだと思います。簡素ではありますが、主務、主将、選手として少しずつ書き、周囲の方々から学んだことのお礼や、後輩にとっての何らかの糧にできればと思います。
主務の時に考えていたことは、2年生でも幹部としての自覚を持ち、批判をする側ではなく受け止める側でいること、それでも幹部代ではないのであくまでも実務の面で先輩方の代を支えること、そして、主務の仕事を言い訳にせずフリコやセレクに妥協なく励み、必ず試合に勝ってくること、などでした。「安定感のある」「有能な」といったいわゆる主務らしい主務ではなかったので、主務として語れることは多くありません。どちらかというと、主務の業務は最低限こなしながら、人の話に耳を傾けることや、試合に勝つことなどで、自分らしく部活に貢献しようとしていたように思います。良くも悪くも、役割というのはあくまでも部活全体を円滑にまわすための分担であり、枠組みではないと考えるようにしていました。主務らしさは語れませんが、主務適性がないのに主務になってしまった人がいれば、何でも相談してください。
主務の頃は、自分のポンコツ具合に周囲に迷惑をかけることも多かったですが、先輩方や同期、後輩に支えていただき、なんとかやり切ることができました。本当にありがとうございました。
主務の経験でいちばんよかったことは、一年早く幹部を覗き見できたことでした。特に感じたことは、部活の表に出るのは幹部代の方々が考えていらっしゃることのほんの一部にすぎないけれど、部員にとってはそれがすべてだということです。その中で全力を尽くして役割を全うされる先輩方はとてもかっこよく、自分もそうありたいと思いました。また、先輩の代と自分の代の二つの代を間近で見てきて、もっと上の代の先輩方にもお話をたくさん聞きましたが、どの代も、結局悩む内容はそんなに変わらないという気がしました。後輩は、自分がいちばん辛いと感じた時でも、探せば必ず似た人がいるはずなので、先輩にはうまく頼ってみてほしいです。
主将として考えていたことは、明確にふたつでした。ひとつは、必ず結果を出すこと(双青戦勝利、七大戦優勝、リーグ戦四部昇格)。もうひとつは、女子部の9人一人ひとりがテニスを純粋に楽しめる場を作ることです。
このふたつは、同じ方向を向くこともあれば、矛盾することもありました。楽しくなかったら大事なところで勝てないし、楽しいだけでは大事なところで勝てません。結果にこだわるから楽しいし、結果にこだわるから辛くなります。
その中で、体育会の部活は放っておいたら結果にこだわる方に寄っていきますし、女子部は真面目で放っておいたら苦しむ方に寄っていくので、普段はひたすら楽しい部活にできるよう注力しました。今日もみんなと会えて楽しかった、次の練習では何ができるだろう、と日々思えるようにです。それでも、結果か雰囲気か、どちらかを選ばなければいけない場面では、必ず結果を出すための決断をするのが自分の仕事だと思っていました。
具体的には日々の一言ひとこと、一挙手一投足の積み重ねでした。練習メニューにテーマを持たせること、眠くても声を出して楽しそうに練習すること(よく寝てから練習に行くこと)、些細な変化に気づこうとすること、くだらない話で満たすことetc…。
それができていたか、そもそもそれを目指してよかったかは分かりません。でも主将というのは、自分で良かったとか良くなかったとか言う類のものではないと思っています。「双青戦勝利、七大戦3位、リーグ戦5部11位」という結果と、この一年間部員一人ひとりが感じてくれたことがすべてなのだと思います。
結果については、主将として総括しておくと、この代の女子部は、圧倒的に強い選手がいなかったにもかかわらず、全員が競った試合を取り切る強さを持っていたことで、今までと少し違った形の強いチームになったように思います。勝ち確の試合が一つもない中で、出場選手全員が一勝以上する形で七大戦3位を取れたことや、負けてはしまいましたがリーグ戦で昇格した2校に3-4までつけた上で負けていること、私たちの代が抜けたからといって特に大きな戦力ダウンにならないこと、などがその強さを表していると思います。後輩たちが何を課題に思ってくれたのか、どこをさらに強化してくれるのか、楽しみにしながら、これからは今年叶わなかった目標への道筋を支えていきたいです。
主将の一年間、いつもどんな時も、部員の皆さんや先輩方に支えていただいていました。主将をやりきれた、というより、主将でいさせてもらったのだと思います。最後まで代を一緒に走ってきてくれて、見守ってくださって、ありがとうございました。
最後に選手として書きます。2年生半ばのS1になったばかりの頃、先輩に言ってもらった言葉が私のバイブルになっていたので、紹介させていただきます。当時は、前代、前々代のエースの先輩と比べて私は3段階ほど弱く、そもそも必死にフリコやセレクをしてレギュラーを取ったばかりで、今まで勝ってきた相手にまた勝てるかも分からない時期でした。「自信がないです」とこぼした時に、先輩はこう言ってくださいました。
「勝つべき相手は他校のS1だから、そこだけ見てやりなよ。それを目指した上で、前に勝ったことがある人に負けても、それは相手が上手くなってただけで、自分が弱くなったわけじゃない。一回勝った人に負けないようにって考えるより、今勝てない相手にどう勝つかを考える方が伸びるでしょ。負ける時は負けるし、堂々と前だけ見てればいい」。
おかげで腹が決まりました。中途半端なところで負ける怖さをふりはらい、高いところをまっすぐに見る勇気を持つことができました。
本当に勝たなければいけない相手との試合は、きっと最後、メンタルゲームになります。リーグ戦や大事なセレクで、ラリーの出口がなくなった時、2ndまで通用したポイントパターンが封じられた時、それでも自分のテニスを信じられるかどうかで、できるプレーは大きく変わるはずです。そして自分を信じる根拠になる唯一のものは、練習や試合で、過去に自分で成功させてきたショットやプレーです。勝ちたい相手、勝つためのショットを常に想定して練習することで、どんな場面でも、いつも通りの自分でいられます。先輩の言葉は、私に、どんな強い相手と試合をしていても最後の最後まで自分を信じられるような、日々の練習を作ってくれました。
残せた結果については、悔しい気持ちの方が大きいです。ここ6,7年続いてきた「地の力で他校のエースを圧倒する東大エース」に私もなりたかった。でも、それはそれです。肯定も否定もせずに、大切にしまっておきたいと思います。今、思うことは、ただ、たくさんの人と関わりながら、こんなにがむしゃらにテニスができて、とても幸せだったということです。「堂々と前だけを見る」ことは、怖い時も苦しい時もありましたが、いつも周りの存在を感じながら、一生懸命でいることができました。
いつも寄り添っていただき、応援していただき、勝つことを信じていただき、ありがとうございました。最後まで、それでもコートに立とうと思えたのは、みなさんのおかげでした。
私がこのブログで伝えたい感謝ってなんだろうと考えてみた時、たくさんの場面が思い浮かびました。先輩に憧れたこと、脈絡のない話をずっと聞いてもらったこと、先輩ならどうするんだろうと考えたこと、同期と懸命にもがいたこと、分かり合えたこと、刺激をもらったこと、笑い合ったこと、後輩に元気をもらったこと、頑張る理由をもらったこと、その振る舞いから学んだこと。一つひとつ挙げればきりがありません。とにかく、追いかけて、学んで、支えられて、支えて、滅多打ちにされて、笑って、そんなことの繰り返しが素敵な毎日でした。どうしてもシンプルな言葉に落ち着いてしまいますが、関わってくださったすべての方々、私に一生の思い出をくださり、ありがとうございました。私の心からの感謝の気持ちを、少しでも受け取ってくださると嬉しいです。
最後になりましたが、OBOGの皆様方におかれましては、一年間、多大なるご支援を賜り、ありがとうございました。女子部という小さな組織も気にかけてくださり、おかげで最後まで力強く駆け抜けることができました。この代での四部昇格は叶いませんでしたが、後輩たちはそれを実現する力を十分に持っているので、必ず成し遂げてくれると思います。今後とも、変わらぬご指導ご闊達のほどよろしくお願いいたします。
私にかけがえのない時間をくれた庭球部が、これからも誰かにとっての宝物になりますように。東大庭球部に出会えた素敵な偶然に感謝し、まだまだ走っていく後輩たちに心からのエールを送り、私の引退の言葉とさせていただきます。
ありがとうございました。
東京大学運動会硬式庭球部 女子部前主将
飛鳥井翠