ギンナンはなぜ臭いのか〜山本孝虎〜
こんにちは。東大庭球部二年の山本孝虎です。
今回は銀杏の話をします。銀杏には「イチョウ」と「ギンナン」の二つの読み方がありますが、僕が今回取り上げたいのは主に後者です。東大の本郷キャンパスにはたくさんのイチョウが植えられています。正門から安田講堂まで真っすぐに伸びるイチョウ並木が有名で、東大の公式ロゴマーク(僕たち庭球部もこのロゴを使用しています)にも採用されていますね。
さて、ちょうど今ごろの時期、すなわち10月から11月にかけて、イチョウの葉は緑色から黄色へと変わり、やがて落葉します。地面に落ちた葉っぱはまるで黄色いじゅうたんのように敷きつめられ、キャンパス内にとても美しい景色を演出してくれます。しかし、この時にイチョウの木から落ちるのは葉っぱだけではありません。それが今回のテーマ、ギンナンです。
イチョウの葉っぱも、それこそ地面を埋め尽くすほどたくさん落ちますが、ギンナンも負けず劣らず大量に地面に落下します。そして落下の衝撃で潰れます。あるいはキャンパス内を歩く人々によって踏み潰されます。いずれにせよ潰れます。この潰れたギンナンは非常に臭いです。特に雨上がりの潰れギンナンは凶悪で、マスク一枚程度では到底臭いを防ぎきることはできません。さらに、ギンナンで溢れた道をぼーっと歩いていると、自分自身の足で大量のギンナンをパキパキプチプチと踏み潰してしまいます。靴の裏にペースト状のギンナンがこびりつく、新たに潰れたギンナンがさらに臭いを増幅させる、そもそも踏み潰した時の感覚が不快などなど、ギンナンを踏んでしまうと良いことは一つもありません。秋の本郷キャンパスでは、下を向いて足元を注意深くチェックしながら歩く必要があります。
ここまで書いてきたように、この時期のギンナンに僕たちは非常に苦しめられています。しかし、このまま泣き寝入りしてよいのでしょうか。やられっぱなしで本当によいのでしょうか。
そんなはずはありません。ここで強引に話をテニスに繋げますが、例えば強敵との試合で序盤にゲームを連取されてしまった時、皆さんは巻き返すためにまず何をするでしょうか。そう、相手についての分析です。相手をよく知ることで、そこから反撃の糸口も掴めるのではないでしょうか。ということでここからは、ギンナンはなぜ臭いのかについて書いていきたいと思います。
そもそもギンナンとは何か。僕はこれをイチョウの実だと思って20年間生きてきましたが、調べたところによると実ではなく種子らしいです。この種子が熟すると、表皮があの強烈な臭いを発するのですが、その臭いのもとは二つ、酪酸とエナント酸です。酪酸は人間の皮脂にも含まれており、蒸れた足の裏から発せられる臭いの原因物質でもあります。これだけでも十分ですね。想像するだけでも臭い。今僕は顔をしかめながらこの文章を書いています。
さらにもう一つ、エナント酸は腐敗臭を発生させます。この二つの物質が混ざり合った結果、あの臭いが発生しているのです。そう言われてみると、ギンナンの臭いはギンナンの臭いとしか表現しようがなく、独特なように思えます。単一の物質ではなく、二つの物質が混ざり合っているからこその臭いなのですね。ちなみに酪酸の臭いは排泄物とも共通するため、人間だけでなく野生動物もギンナンは避けて食べないのですが、タヌキやアライグマは食べるそうです。嗅覚はどうなっているのでしょうか。
また、本郷キャンパスに多くのイチョウが植えられていることについては、第三代および第八代の総長を務められた濱尾新(はまお あらた)先生による、大学構内に桜など植えていては勉学に集中できないので、足を踏み入れた者が思わず襟を正すような、学生が勉学に打ち込めるような環境にしたい、との意向でイチョウを植えることになったという経緯があります。僕は桜の方がよかったと思います。この先生はこういった大学構内の整備を積極的に行い、「土木総長」との渾名で親しまれたそうです。
ちなみに、この記事で使っている画像は昨年の秋に僕が駒場キャンパスで撮影したものです。今年はまだイチョウが黄葉しておらず、また昨年の本郷では写真を撮っていなかったためです。本郷のイチョウ並木と似たようなものだとは思いますので、ご了承ください。
さて、真面目な記事が多い庭球部のブログの中で、どちらかと言えば箸休めに近いスカスカの文章をここまで書いてきました。臭いの原因がわかったからといって我々人間がギンナンに打ち勝てるわけではありませんし、特にテニスに活かせることでもないですが、秋を彩る一つのトリビアとしてお楽しみいただけたら幸いです。
それでは、この辺りで筆を置きたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。